「ホッピーを飲みに行きましょう。」
前いた会社の関係者では唯一接触を保ち続けているO野先輩(転職済)と三田まで出て飲んだくれ。O野さんはKO大出の人なので三田には詳しい。
「随分変わっちまったけどなあ。」
「そうですか。」
六大学など縁なき衆生な私にはわからないが。
「まあ、怪しい店は見つけたんだけどさ。」
「行きましょ行きましょ。」
というわけで探してみたが、三田の飲み屋街は入り組んでいてわかりにくい。
「あっ、あれは何ですか!?」
「立ち飲み屋で店の外まであふれてんのかよ、おい。」
「へー、人気あるんですねー。デフレは終わらないんでしょうか。」
「そう言えば、こないだなんか、立ち飲み屋貸し切りで宴会やってる会社があったぜ。」
「ひょえー。」
などと言いながら路地をさまようが、なかなか見つからない。しかたがないのでホッピーの絵を看板にしている1軒の店を見つけて、そこに入った。絵だけで「ホッピー」の文字がないのが気にかかったが…
「ホッピーありますか?」
「ないんですよ。」
半ば予想通りの答えだが、入ってしまったものはしかたがない。が、適当に注文してみたら、これが案外よかった。値段の割にはボリュームはあるし味も悪くない。お目当てのホッピーがないので早々に出てきたものの、
「4〜5人で来たらかなり安く上がるなあ。」
「意外といい店でしたねえ。」
ホッピーがないくらいで「案外」だの「意外」扱いするのは申し訳ないが、「庶民の味方」の飲み屋はまだまだ健在なようだ。
惜しむらくは、テキトーに入った店なので名前を忘れてしまったこと(笑)。*1
*1 「浪速屋」だったか「浪華屋」だったか…
ホッピーが飲みたければ、昨今のブームで扱い店も増えたようだし、大手チェーンなら「和民」でも扱っているから最近はあまり困らなくなったが、あまり小ぎれいな店で飲むのは、昔からのファンであるO野さんの趣味に反するらしい。かく言う私もそうだ。理想の環境は、間口は狭く奥が長く、大衆食堂にあるようなテーブルがあって、油と煙で茶色がかった壁には黄色い紙でお品書きが貼ってあって、色とりどりのビニールを貼った丸椅子が無造作に並べてあるような。床も油が染みついているが、店員がしっかりと掃除をしているので滑ることはない、そんな店がいい。
1軒目を出て狭い路地を歩く。おや、こんな所に「世界の山ちゃん」が。なかなかシブい所を突いて出店しているなあ。「行きませんか?」と言おうとしたが、店の外で待ってる客がいるのでスルー。大人気だ。
フラフラと歩いて、ひょいと入った路地でO野さんが見つけておいたという店が見つかったので、地下への階段を降りる。看板はなく、店の名前と「→」を*1を書いた画用紙が貼ってある。
「な、怪しいだろ?」
「期待持てますねえ。」
が、入った店は、予想に反して小ぎれいな造りだった。あれ?こんな所で?と思いつつ奥の席に通され、おしぼりを受け取りながら
「何になさいます?」
「じゃ、ホッピー2つ。」
と言うと、女将が笑いだした。
「あらあら、それは隣ですよ。」
「隣?」
「ええ、よく間違われるんですの。ホホホ。」
まあ、よく見れば小料理屋然としたたたずまいで、そんな下等な飲み物は置いていなさそうではあるが、隣に店なんかあったかな?
失礼を詫びつつドアを開けると、真向いに無愛想な鉄の扉がある。
「えーっ!?」
「これって、ビルの機械室とか管理室じゃ…」
と開けてみると、まごうことなき酒場の風景が広がっていた。
「はー…」
扉を開けると異世界だった、なんてネタはよく見たが、まさにそんな感じ。怪しさゲージが一気にはね上がったが、残念ながら満席だったので、あきらめて外に出た。
しかし笑えるなあ、このシチュエーション。いつかまた行ってみよう。
*1 こっちは完璧に忘れた。
地上に戻って適当に入ってみた「焼鳥うまいもんや 串特急」でようやくホッピーにありついた。
店舗は「八重洲仲通り」「新橋」「神谷町」「虎ノ門一丁目」「人形町」「浜松町」「三田」「西新宿」にあるから、完全にビジネス層向けのチェーン展開だが、店内はごく普通の居酒屋チェーンで、どこが「特急」なのかよくわからない。
「べつに汽車で料理運んでくるとかじゃないんですね。」
「注文してから出てくるまでが異常に速いとかね。」
まあ、そんなことも別になかったわけで。
店内に置いてあるチラシを見たら「串特急 忘・新年会承り中!」とあって、「こだまコース」「ひかりコース」「のぞみコース」などとある。これだったんですか。
それにしても、
「すいませーん、中1つ!」
「赤?」
「中。」
「赤?」
「な・か。」
「あ・か?」
いや、日本には「赤ホッピー」というのはないんですよ。中国にはあるかも知らんけど。
47,550.5粁。