学校が終わってから両親が帰宅するまでの間、留守番を兼ねて孫の面倒を見に行っている老父が、その娘夫婦の家で倒れた。私の帰宅途中にケータイが盛大に鳴っていたようだが、走行中は取れないから放っておいたら、助けを求める電話だったらしい。「めまいがする、気持ちが悪い、早く来てくれ。*1」って、しゃべれるんなら、その前に救急車呼べよ。
本人は「明日は大事な用があるし、今日は家に帰って寝る。」と主張しているのだが、着いてみると、目の周りにクマ状のものを作ってぐったりしている。甥っ子は甥っ子で、叔父ちゃんが久しぶりに来たものだから、「遊ぼう遊ぼう」とうるさい。無邪気なのはいいけど、目の前でぐったりしているのはどう見ても君のお祖父ちゃんだぞ。どこかで育て方間違えてないか?>ねーちゃん
「めまいがして、立ち上がることもできねえんだ。」と言う人が、どうやって家に帰るのか、じっくり観察してやりたい気もしたけれど*2、ここは救急車を呼んで、近くの大きな病院に担ぎ込むことにした。一瞬、久しぶりに救急車に乗れるのかな、とも思ったが、甥っ子もいることだし、関係各所への連絡もしておかなければならないから、老父は救急隊員の皆さんに任せて、後始末をしてからカブで病院へ向かった。
しかし、救急車ってのは、いまだに来るだけで一大イベントになるのだね。近所の人や通りすがりの人が「なんだなんだ」と見に集まって来るくらいだから、やはり珍しいのだろうか。救急車の出動回数が増えすぎて困っている、という当局の発表が、なんだか嘘くさく聞こえてきた。
「はいっ、ちょいとごめんよっ、ごめんよっ」と言いながら救急車が行った後で、甥っ子をご近所さんに預けて*1、私もカブで後を追いかけた。
病院に着くと、老父は今しがた救急外来に担ぎ込まれたところで、
「どうですかぁ?」
「オエーッ!」
「気分悪いですかぁ?」
「グエーッ!」
という会話(?)が聞こえてきた。
「オレ、ちょっと『心配波止場』に行ってくるわ。」というわけにもいかず、急を聞いて駆けつけてきた老母と2人で診療室の外で待つ。
…検査の結果、なぜだか特に異常は認められない、とのことで、医者も家族も狐につままれたような顔をする。最も懸念されていた脳溢血についても、「99%、その可能性はありません。」との太鼓判。そういえば、この人、3年前にも突然ガタガタ震えだして、あわてて病院に担ぎ込んだら「特に異常はないみたいですし、原因はわかりません。」と言われたっけかな。
それでも、今夜は一晩入院させて、明日検査を受けさせることにした。当の本人は、落ち着いてきたのか、点滴が効いてきたのか、だんだん元気を取りもどしてきた様子。
「尿瓶?俺ぁトイレでないと出ねぇんだ。」
「今起き上がってはダメです。」
「大丈夫だって、ちょっとトイレ行くだけだから。」
「それは困ります。もし途中で倒れたらどうするんですか。」
だの、
「明日帰るから、服と財布は置いてけ。」
「あのですね、お財布は盗難の危険もありますから、病室には置かないでくださいね。」
「帰るったら帰るんだ、大丈夫だって。」
「ですからね、明日は検査して様子を見るんですから。」
だの、いきなり変なワガママぶりを発動。老人ってのは、これだから始末におえないところがある。それでも看護婦さん達は手馴れたもので「まあまあ」となだめていて、「さすがプロだなあ」と感心の面持ちで眺めていたが、1人マジでブチ切れそうな顔をしていた人は、大丈夫だっただろうか。
「爺さん、もし抜け出して帰ってきたら勘当するからね。看護婦さん、かまわないから拘束具で縛りつけといてください。」
親族代表として承認を与えてきたものの、後半は今ひとつシャレにならなかったようで、笑いが薄かったなあ…
*1 ありがとうございました。
48,782.8粁。